複式簿記の手順を段階的に解説|記帳のための準備と概要


収入と支出の内容、タイミングを知り、事業を成功に導くために、正確かつ適時な記帳は欠かせません。ここでは、簿記の知識に自信がない方でも理解しやすいように、段階的に記帳の手順を説明します。

1.必要な準備

まずは、記帳に必要なものを揃えましょう。

会計ソフト

会計ソフトで記帳すると、効率的に記帳することができ、入力したデータも経営に活かすことができます。手書きの帳簿やExcelでも記帳できますが、簿記の知識が必須となり、集計にも手間がかかります。

無料の会計ソフトもありますが、長い目で見た場合、有料でも使いやすいソフトを選ぶ方が、様々なメリットがあります。

銀行口座

事業用に新しく銀行口座を開いておくと、プライベート(生活用)の入出金が混ざらないので、記帳がシンプルになります。

また、インターネットバンキングが使えるようにしておくと、会計ソフトと自動連携ができ、記帳が効率的になります。

ネット銀行が便利ですが、行政手続が一部対応していないなどのデメリットもありますので、あわせてメガバンク、地方銀行などのインターネット口座を開設しておくと、税金、社会保険料の納付など、幅広く対応できます。

領収書・請求書の保管

記帳のもととなる領収書や請求書(証憑(しょうひょう)といいます)は、7年間保管する義務があります。中に12以上の仕切りがついたファイルを準備し、記帳済の証憑を月ごとに分けて保管すると簡単に整理できます。

また、最近の会計ソフトは、証憑をスキャナーでスキャン、あるいはスマホで写真撮影し、画像で証憑を保存できる機能があるものもあります。さらに画像をAIで解析し、自動で記帳できる会計ソフトもあります。

2.記帳の概要

お小遣い帳のように簡単な形で入出金を記録することもできますが、記帳を「仕訳」の形で行うこと(複式簿記)で青色申告制度の適用を受け、税金の優遇措置を受けることができます。

仕訳の要素は、日付、勘定科目、金額で、必要な情報は以下のとおりです。

  • 日付:取引が行われた日付。
  • 取引内容:何を購入したか、または何を売ったか。これに基づき勘定科目を決定します。勘定科目は取引を分類して集計する単位となります。
  • 金額:取引の総額。
  • 収入または支出の手段:現金、クレジットカード、銀行振込、掛けなど。

仕訳は借方と貸方が必ずセットになっていて、借方の合計金額と貸方の合計金額が同じになるように記録します。借方は(借)や(Dr)、貸方は(貸)や(Cr)のように省略した標記を用いることが多いので、ここでも(借)、(貸)で標記します。

例えば、コンビニでノートを現金100円で買った場合は、

(借)事務用消耗品費 100円 (貸)現金 100円

と記帳します。きちんと理解するには簿記の勉強が必要ですが(基礎で十分です)、ある程度理解したら「習うより慣れろ」の精神で、どんどん記帳を進めればよいと思います。仕訳の提案など記帳をアシストする機能がある会計ソフトもありますので、会計ソフトの利用は必須と考えてよいでしょう。

3.現金、預金取引の記帳

まずは現金で払った経費の記帳から始めましょう(上記2.で例示した仕訳)。

借方は、取引内容から経費の勘定科目を決める必要がありますが、貸方はつねに「現金」となります。

現金の記帳になれたら、銀行預金の入金・出金の記帳をやってみましょう。

例えば、普通預金に売上の代金1,000円が入金された場合は、

(借)普通預金 1,000円 (貸)売上高 1,000円

となります。また、普通預金から家賃の引落し500円があった場合は、

(借)地代家賃 500円 (貸)普通預金 500円

となります。普通預金が増える場合は借方、減る場合は貸方に「普通預金」を記帳します。現金と預金の記帳に慣れたら、次は発生主義にチャレンジです。

4.発生主義による記帳

商売はお金が無くなって仕入や給料の支払いができなくなるまで延々と続けることができますが、どれだけ儲かっているかを知るためには期間を区切って測定する必要があります。通常は月が一巡する1年を単位とします(会計期間といいます)。個人の場合は1月1日から12月31日が会計期間となります。

人為的に期間を区切って儲けを計算するので、モノを売ったり買ったりした日で売上や経費を記帳することにより、正確な儲けが計算されることになります。

しかしながら、小売など店頭での取引を除いては、モノの売買と同時に代金も決済されることは少ないです。そのため、代金の決済日で記帳を行うと(そういった記帳方法を現金主義といいます)、実際にモノを売ったり買ったりした日とは違う日で記帳されてしまうことになります。

例えば、20X1年10月に商売を始めて10月に商品100円を仕入れ、11月に代金を支払った後、12月にこの商品が200円で売れ、20X2年1月に代金を回収した場合(単純化のため、20X1年・20X2年は他の取引がなかったとします)、現金主義で記帳を行うと20X1年は100円の赤字、20X2年は200円の黒字となります。

商品の仕入と販売はともに20X1年に行っているので、20X1年に100円(=売上200円-仕入100円)の黒字となるべきです。そこで取引が発生した日で記帳する発生主義の登場です。上記の例で仕訳してみましょう。

・20X1年10月に商品を100円で仕入れた(代金決済は11月)。

現金主義での仕訳発生主義での仕訳
仕訳なし(借)商品仕入高 100円
       (貸)買掛金 100円

・20X1年11月に仕入代金を普通預金から支払った。

現金主義での仕訳発生主義での仕訳
(借)商品仕入高 100円
       (貸)普通預金 100円
(借)買掛金 100円
       (貸)普通預金 100円

・20X1年12月に商品を販売した(代金決済は20X2年1月)。

現金主義での仕訳発生主義での仕訳
仕訳なし(借)売掛金 200円
       (貸)売上高 200円

・20X2年1月に販売代金を普通預金で回収した。

現金主義での仕訳発生主義での仕訳
(借)普通預金 200円
       (貸)売上高 200円
(借)普通預金 200円
       (貸)売掛金 200円

10月に仕入をしてから11月の支払いまでは「普通預金」は減らないので、代わりに(貸方)を「買掛金」という債務で記帳します。債務とは「将来お金が出ていく約束」と考えてください。11月の支払い時には「普通預金」が100円減るので(貸方)、(借方)には「買掛金」100円を記帳します。簿記では、借方の計上額と貸方の計上額の差額を残高といいますが、買掛金は10月に(貸方)100円、11月に(借方)100円が計上されていますので、10月末の残高は(貸方)100円、11月末の残高は0円となります。

次に12月に商品を販売してから1月の代金回収までは「普通預金」は増えないので、代わりに(借方)を「売掛金」という債権で記帳します。債権とは「将来お金がもらえる約束」と考えてください。1月の代金回収時には「普通預金」が200円増えるので(借方)、(貸方)には「売掛金」200円を記帳します。売掛金は12月に(借方)200円、1月に(貸方)200円が計上されていますので、12月末の残高は(借方)200円、1月末の残高は0円となります。

このように「普通預金」を増減させる前に「売掛金」や「買掛金」などの債権債務を通過させることにより、売上と仕入を20X1年に記帳することができ、正確に儲けを把握することができます。

5.まとめ

記帳に不安がある場合は、専門家のサポートを受けることも検討しましょう。税理士や公認会計士などの専門家に相談することで、正確な記帳と税務申告が可能になります。

記帳は、個人事業主にとって重要な業務です。段階的に手順を踏むことで、簿記の知識がなくても正確な記帳が可能になります。この記事を参考に、日々の取引をしっかりと記録し、健全な経営を目指しましょう。