個人事業主の記帳


Ⅰ 制度概要編

(1) 記帳について

所得税は、納税者が自ら税額を計算し、税務署に確定申告して納付する必要があります。所得税の税額は、所得金額(税法に従って計算された1年間の儲け)に税率を乗じることにより計算されます。そのため、所得金額が正確に計算されていないと税額も正確に計算されないことになります。なお、所得金額は10種類の所得に分類され、それぞれ計算されますが、ここでは10種類のうち事業所得に焦点を当てて記載しています。

所得金額(事業所得)は、総収入金額-必要経費で計算されます。ただし、これらの金額がぱっと計算できる訳ではなく、総収入金額も必要経費も何らかの記録に基づき集計、計算する必要があります。そのために、何月何日に何を売ったか、何月何日に何を買ったかなど(これらを「取引」といいます。)を帳簿に記録し、集計する(これを「記帳」といいます。)必要が生じます。

記帳は、お小遣い帳のように、いつ、何に、いくら使ったかだけを記録する簡易的なものから、複式簿記による本格的な記帳など様々なレベルがあります。複式簿記による記帳では検算機能が内包されているため、簡易的な帳簿よりも正確な記帳ができます。複式簿記については、また詳しく説明したいと思います。

以上、税金計算の面から記帳を説明しましたが、記帳を適時に、漏れなく、正確に行うことにより、いま自分がどれだけ売上があって、どれだけ儲かっているかなどが把握できるようになるなど、経営判断のためのダッシュボードが作成できるといった大きなメリットがあります。

(2) 青色申告制度

➀ 青色申告制度とは

青色申告とは、日々の取引を所定の帳簿に記帳し、その記帳に基づいて所得金額や税額を正しく計算し申告することで、所得計算などについて有利な取扱いが受けられる制度です(国税庁資料「記帳のしかた 青色申告編」より)。

「(1) 記帳について」にも記載したとおり、記帳を正確に行うことにより税額も正確に計算されます。正確に記帳を行い、正確に税金計算して納税を行っている人に特典を与えることによって、正しい確定申告が行われるよう促しています。

② 青色申告の主なメリットと要件

(ア) 青色申告特別控除

所得金額(税法にしたがって計算した1年間の儲け)から一定の金額(最高65万円)を控除できます。税額は所得金額に税率を乗じて計算するため、青色申告特別控除を受けることにより所得金額が減少し、節税することができます。

特別控除額と要件は以下のとおりです。

必要手続これから青色申告を始める場合は、青色申告を始めようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に新たに事業を始めた場合は、開業の日から2か月以内)に、「所得税の青色申告承認申請書」を所轄税務署に提出する。
青色申告
特別控除額
要件
55万円以下のイ)からニ)の要件をいずれも満たした場合。
イ)   不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
ロ)   正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で記帳
ハ)   ロ)の記帳に基づき作成した貸借対照表と損益計算書を添付
二)確定申告書にこの控除の適用を受ける金額を記載し、期限内に申告
65万円55万円の要件に加え、イ)またはロ)を満たした場合。
イ)e-Taxによる電子申告
ロ)電子帳簿保存
10万円簡易な帳簿(55万円控除、65万円控除の要件に該当しない青色申告者)

(注) 現金主義による所得計算の特例(*1)の適用を受けている場合や事業的規模でない不動産貸付業(*2)を営んでいる場合や山林所得は、55万円控除の要件を満たしませんが、10万円控除は受けることができます。

(*1) その年の前々年分の事業所得の金額及び不動産所得の金額(青色事業専従者給与の額を必要経費に算入しないで計算した金額)の合計額が300万円以下の場合は、税務署への届出することにより現金主義で所得計算することができる制度。

(*2) 原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって実質的に判断します。ただし、建物の貸付けについては、次のいずれかの基準に該当すれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます(いわゆる「5棟10室基準」)。

ⅰ)貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。

ⅱ)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

山林所得にも10万円控除を適用することができますが、山林所得のほかに事業的規模の不動産所得や事業所得があり、55万円(または65万円)控除を受ける場合は、山林所得について10万円控除を受けることはできません。

(イ) 青色事業専従者給与額の必要経費算入

個人事業主は自分へ給与を支払うという概念がなく必要経費になりません。

そのため、生計を一(いつ)にする(※)配偶者や15歳以上の親族に給与を支払ったとしても、実質的には自分に給与を支払っているのと同じであるため必要経費とすることができません。

ただし、青色申告の場合は、生計を一にする配偶者や15歳以上の親族で専らその事業に従事している人に給与を支払っている場合、その支払った金額のうち、相当であると認められる金額を必要経費とすることができます。

手続青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった人は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2月以内)に「青色事業専従者給与に関する届出書」を所轄税務署に提出する。
要件(1)  その労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度
(2)  その事業に従事する他の使用人が支払いを受ける給与の状況、その事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する人が支払を受ける給与の状況
(3)  その事業の種類、規模及び収益の状況
などに照らして、その労務の対価として相当の金額であることが必要となります。

(ウ) 純損失の繰越し及び繰戻し

所得金額を毎年計算し、それを基に税金計算し納税するため、原則としては他の年の所得金額が他の年の税額に影響を与えることはありませんが、青色申告者の所得金額がマイナス(純損失)となった場合には、以下の制度が使えます。

ⅰ) 純損失の繰越し

事業から生じた純損失の金額を翌年以後3年間にわたって、順次各年分の所得金額から差し引くことができる制度です。

ⅱ) 純損失の繰戻し

前年に青色申告をしている場合は、純損失の繰越しに代えて、その損失額を前年分の所得金額に繰り戻して控除し、前年分の所得税の還付を受けることができる制度です。